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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)1181号 判決 1997年8月29日

原告

三輪淑子

ほか一名

被告

新克也

ほか二名

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告三輪淑子に対し、各自金三六九一万四九二七円及びこれに対する平成七年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告三輪晃義に対し、各自金三四一七万八四七七円及びこれに対する平成七年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件事故

平成七年六月一日午前二時一五分ころ、愛知県日進市藤枝町西外面一五番地先の交差点(以下「本件交差点」という。)において、対面する信号機が赤色灯火の点滅を表示している道路を進行してきた被告鄭が運転し折外三輪信好(以下「信好」という。)が同乗する被告エスエムテック所有の普通貨物自動車(以下「被告会社車」という。)と、対面する信号機が黄色灯火の点滅を表示している道路を進行してきた被告新が運転する普通乗用自動車(以下「被告新車」という。)が衝突した(争いがない。)。

二  信好の死亡と、原告両名による相続

信好は、本件事故による頭蓋骨陥没骨折により、同日死亡した。原告淑子は信好の妻であり、原告晃義は信好の子である(争いがない。)。

三  被告新及び被告鄭の過失責任

1  被告新は、本件交差点に進入するにあたり対面する信号機が黄色灯火の点滅を表示していたのであるから、減速して前方を注視するなど他の交通に注意して進行すべき注意義務があったのに、これを怠って、前方左右の安全を確認しないまま制限速度(四〇キロメートル毎時)を上回る約六〇キロメートル毎時の速度で本件交差点に進入した過失により、本件事故を発生させた(甲五号証の一から三まで、一五及び一七により認められる。)。

2  被告鄭は、本件交差点に進入するにあたり対面する信号機が赤色灯火の点滅を表示していたのであるから、停止位置において一時停止した上、前方を注視するなどして左右の安全を確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠って、一時停止したものの左右の安全を十分に確認しないまま本件交差点に進入した過失により、本件事故を発生させた(争いがない。又は、甲五号証の一から三まで、一三、一四及び一八により認められる(したがって、被告鄭は民法七〇九条による損害賠償責任を負っていることになるので、原告両名は、被告鄭の自動車損害賠償保障法三条による責任について、被告鄭の被告会社車に対する運行支配の程度及び態様は信好のそれに比して直接的・顕在的・具体的であるから、信好は同条本文にいう「他人」に該当する旨を主張するが、この点について判断する必要はないことになる。))。

四  既払金

原告両名に対し、被告エスエムテック契約の自動車保険により搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円、自動車損害賠償責任保険から三〇〇〇万四五〇〇円がそれぞれ支払われた(争いがない。)。

五  本件は、本件交通事故による原告両名の損害について、被告らに対し、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づいて、その賠償を請求した事案である。

第三争点

一  被告エスエムテックについて自動車損害賠償保障法三条の責任の有無

二  本件事故による原告両名の損害額

三  過失相殺

第四争点に対する判断

一  争点一について

1  証拠(甲五号証の一一、一三、一六、一八、乙一号証、二号証、原告三輪淑子本人、被告鄭春和本人、被告有限会社エスエムテック代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。

被告会社車の所有者である被告エスエムテックは、平成六年一一月二二日に訴外佐薙修が設立した会社であるが、信好は、平成七年一月六日ころから被告エスエムテックに共同出資者となった上、同社の取締役として勤務しており、同車の使用権限を有する者である。

信好は、被告エスエムテックに入社以来、業務のため日常的に被告会社車を使用していた。また、本件事故の前夜も、被告会社車を運転し、被告鄭を乗せて「だるま」という居酒屋へ行って訴外朝倉俊作らと酒を飲み、さらにスナックに行って酒を飲んだ後、再び被告鄭を乗せて被告会社車を運転してラーメン屋に行っており、その後は信好が「運転していってくれ。」と被告鄭に頼んだことから、自分も酒を飲んでいるにもかかわらず安易にこの頼みに応じた被告鄭が信好を助手席に乗せて被告会社車を運転したものである。

2  右に認定した事実によれば、信好と被告エスエムテックとは被告会社車についていずれも運行支配を有しており、いわゆる共同運行供用者の関係にあるが、信好の被告会社車に対する運行支配の程度及び態様は、被告エスエムテックのそれに比して直接的・顕在的・具体的であるから、信好は自動車損害賠償保障法三条本文にいう「他人」には該当しない。

3  以上によれば、原告両名の被告エスエムテックに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

二  争点二について

1  逸失利益

原告両名は、信好(死亡時三五歳)の逸失利益として、平成六年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者の年収額五五七万二八〇〇円を基礎として、生活費控除率三〇パーセント、就労可能年数三二年(新ホフマン係数一八・八〇六)として算出した七三三六万一四五四を請求する。

しかしながら、賃金センサスによる逸失利益の算定は、現実の収入による逸失利益の算定が不可能な場合になされるものであり、証拠(甲三号証の一から六まで、五号証の一一、被告有限会社エスエムテック代表者本人)によれば、信好は本件事故当時月額二七万円(年額三二四万円)の収入を得ていた事実が認められるから、信好の逸失利益を算定するにあたっては、右金額を基礎とするのが相当である。

原告両名は、平成五年及び六年当時に信好が得ていた収入が賃金センサスにおける信好の年齢に相当する欄の平均年収とほとんど差がないことを理由として、信好について賃金センサスにおける平均年収を得られる蓋然性があると主張するが、信好が被告エスエムテックに転職したのは前記認定のとおりまぎれもない事実であり、信好が同社で右平均年収程度の収入を得られる蓋然性があると認めるに足りる証拠はない。

したがって、信好の逸失利益については、生活費控除率三〇パーセント、就労可能年数三二年(新ホフマン係数一八・八〇六)として算出した四二六五万二〇〇八円となる。

2  慰謝料について

原告両名は、信好の慰謝料として、二五〇〇万円を請求するが、本件事故の態様、原告の年齢、家族状況、搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円が支払われていることなど本件に表われた諸般の事情を考慮すると、一五〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用について

原告淑子は、信好の葬儀費用として二七三万六四五〇円を請求し、これに沿う証拠(甲四号証の一から五まで)もないではない。

しかしながら、先に認定した信好の社会的地位などを考慮すると、信好の葬儀費用としては一二〇万円が原告淑子の損害として相当である。

三  争点三について

先に認定した各事実に加え、証拠(甲五号証の二、三、一三から一五まで、一七、一八)によれば、信好は本件事故当時シートベルトをしておらず、それもまた信好の被害の拡大の一因となったことが認められる。

このような信好については、公平の観点から本件事故による損害についてその過失を斟酌するのが相当であり(また、被告新との関係では、被告鄭の過失も信好側の過失として斟酌するのが相当である。)、その割合については、前記本件事故に関する一切の事実を考慮すると、被告鄭との関係では五〇パーセント、被告新との関係では八〇パーセントとするのが相当である。

以上によれば、被告新及び被告鄭が賠償すべき原告両名の損害は、自動車損害賠償責任保険からの既払金三〇〇〇万四五〇〇円を損益相殺すると、すべててん補されていることになるから、原告両名の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判官 榊原信次)

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